ソニー・ロリンズには歌心があるか?
この際だから、はっきり言っておこう。
ソニー・ロリンズには、歌心は無い。
「全く無い」と言うと語弊があるので、
より厳密に言えば、
ソニー・ロリンズには、歌心が少ない。
ソニー・ロリンズのファンには申し訳ないが、
多くのサックスプレーヤーのアルバムを
何百枚も聴いて来た上での結論だ。
理由を説明する前に、
「歌心」とは何か、その定義を確認してみよう。
定義が人によってまちまちであれば、
議論の意味が無いからだ。
国語辞典を調べてみると、
「歌心」とは、
和歌を詠もうとする風流な心持ち。
和歌についての心得・素養。
(三省堂の大辞林)
和歌を詠もうとする心持ち。
また、和歌についての素養。
(大辞泉)
どちらも、
日本の和歌(短歌など)を詠む時の
「風流」な、「ものの趣を理解した」心
を指している。
一方、
プログレッシブ和英中辞典では、
「詩人の素質」と解され、英訳されている。
彼には歌心がある
He has a poetic 「turn of mind [nature].
これらの定義と、
実際に「歌心」という単語が、
ジャズの分野で使われる場面を思い出し、
総合的に分析し、私なりの解釈を試みた。
結局、
ジャズ(音楽)における「歌心」 とは、
「詩人の書く詩のようなロマンチックな情感を、
楽曲の演奏の中に表現できるだけの心と技量」
と定義できるのではないだろうか?
つまり、
ロマンチックな演奏が出来る演奏家には、
「歌心」があって、
ロマンチックな演奏が出来ない演奏家には、
「歌心」が無い。
もちろん、それを決めるのは演奏者ではなく、
聴衆側である。
その演奏を聴いて、
ロマンチックであると感じられれば、
「歌心」があると言える。
問題は、聴く人の感性によって、
「ロマンチックな情感」の
感じ方が異なってしまうことだ。
私が「歌心」が無いと感じたとしても、
他の人は「歌心」があると感じるかもしれない。
誰もが納得しうる絶対的な尺度が無いので、
最終的には多数決になるのだろう。
だが、そんなことを言ってたら、
アンケートでもしない限り、何も言えなくなってしまう。
私は、ジャズだけでなく、
クラシック、ポップス、ロック、ゴスペルなど、
これまで様々な音楽を聴いてきたし、
サックスの心得も多少ある。
一般の人よりは音楽における「歌心」を理解していると
自負しているこの私が、
あえて批判を承知で述べさせてもらうと、
ソニー・ロリンズには、歌心は無い。
理由はいくつかある。
ソニー・ロリンズのバラード演奏は、
フリーキーな部分が多過ぎるため、
ロマンチックな気分を台無しにする場合が多い。
余程、フリージャズに聴き慣れてて、
フリーキーな音にも耐性ができている、
要するに、
鈍感(不感症)になっている人はともかく、
普通のメロディアスなバラードを好む、
ごく一般的なにとっては、
苦痛さえ感じさせるのだ。
ソニー・ロリンズが時々見せるフリーキーな音色や、
バラードを台無しにする突如の大きな音量、
コードやスケールには合っているのかもしれないが、
前後の流れを台無しにする脈絡も無い音選び。
これらは、非常に不愉快きわまりない。
「セント・トーマス」なんかは、
実に「歌心」溢れているじゃないか!
と反論する人はいるかもしれない。
だが、あれは「歌心」があるんじゃなくて、
「自由奔放さ」「豪快さ」
が「気持ちいい」ということに過ぎない。
「自由奔放さ」も「歌心」の一種ではないか!
と言われるかもしれないが、
「自由奔放さ」「豪快さ」は、
「歌心」の示すもののせいぜい数%に過ぎない。
「歌心」を構成する大部分は、
「ロマンチック」「情感」などであり、
聴いているうちに、
体
が震えて、心が熱くなり、涙が出てくる
というようなものなのだ。
以上の説明で、理解してもらえただろうか?
別に、全ての人に理解してもらおうなどとは思わない。
人それぞれだ。
蓼食う虫の嗜好にまで、
いちゃもんつけるつもりは毛頭無い。
だが、少なくとも、
ポップスやロック、クラシックを聴いている人が、
「歌心」があるサックス奏者として、
ソニー・ロリンズを薦められて聴く
という暴挙だけは防がなければいけない。
その為に、
ジャズの「歌心」に偏見を持たれては、
ジャズを嫌いになられるのは悲しすぎる。
去年、引退公演だとか何だとか言って、
ソニー・ロリンズが来日したが、
意外とジャズファン以外の人が
結構聴きに行っているから驚きだ。
「最後の公演」という言葉に、
人間は弱いということもあるのかもしれないが、
演奏を聴きに行く、
というより、
ソニー・ロリンズを見に行く
と言ったほうが正しいのだろう。
実際、ソニー・ロリンズの公演に行った人に
感想を聞いたところ、
やはり「音」も良くなく、フリーキーな音を連発していたという。
(そんなことは、ロリンズ自身が気にも留めないが。。。)
その代わり、
しぐさや表情、パフォーマンスが非常に面白かった
のだという。
少なくとも見る分には、魅力的なのだ。
そういう訳で、
ソニー・ロリンズを紹介する時に、
「歌心溢れるサックス奏者」
などとは言ってはいけない。
「自由奔放で豪快で、サービス精神旺盛なサックス奏者」
と言うべきなのだ。
もちろん、ジャズ初心者には、
決して薦めたいとは思わない。
「サキソフォン・コロッサス」(略称:サキコロ)
という超名盤と呼ばれるアルバムがあるが、
私は過去に3回挑戦して、その度に玉砕し、
中古CD屋に売り払っている。
あれのどこが「名盤」なのか、
いまだに理解できない。
「それは、君がその良さを理解できないからだよ」
と言われればそれまでだが、
自然体で聴いて理解できないような演奏など、
クソ食らえだ!
音楽は努力して聴くものではない。
そのことを演奏者側もジャズオタクも理解していないから、
いつまで経ってもジャズの市場が広がらないのだ。
ソニー・ロリンズというサックス奏者、
しかも、現存するジャズ界最後の巨人は、
「歌心」を重視する私のようなジャズファンにとっては、
決して越えられない難関だと言えよう。
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流 音弥
2005年1月4日







